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数学、統計、プログラミング、たまに物理学?に関して勉強したこと疑問なんかを綴っていきます。

弾性学に関する知識の整理1 - 線形代数の復習

仕事(建築系)で曲げとか剪断とか歪みとか、いわゆる弾性学の知識が必要になることが多いので、物理、解析学が苦手なりに整理してみようという趣旨で書いてみます。
特にテンソルについては、いろんな人がいろんなことを書いているので何が定義なのかもよくわからないまま書き始めています。
座標系を決めてやると決まる何か…だから舞台は物体(3次元空間の部分多様体)上の適当ベクトル場と思ってればいいのかな。
…などとあたりをつけたところで、とりあえず復習として線形代数のお話から。
(結局今回は弾性学に使われるテンソルの少し一般的な定義を書いただけで終わってしまいました。次回はもう少し物理よりの話を書く予定。)

1. 双対空間 あまり一般的なことを書いてもしょうがないので、以下では特に断らない限りベクトル空間の基礎体は実数体\mathbb{R}、次元は有限とする。
ベクトル空間 Vに対して、その双対空間 V^*とは Vから基礎体  \mathbb{R}への線形写像全体の集合に自然な和およびスカラー倍演算を入れて得られるベクトル空間をいう. つまり, 集合としては

 V^* = \{f\colon V\to \mathbb{R}: f\text{ は線形写像}\}

であって、和およびスカラー倍は f,g\in V^*, c\in \mathbb{R}に対して,

 f+c\cdot g\colon v \mapsto f(v)+ c\cdot g(v)

で定義される.  Vの基底(e_0,\cdots, e_{n-1})が与えられたとき,  Vの元 v = \sum_{i=0}^{n-1} v_i e_iから e_iの係数 v_iを取り出す写像 vに関して線形であり, これを e^iと書くことにすれば, 明らかに e^i (i=0,\cdots,n-1)は独立で, 任意の f\in V^*および v = \sum_{i=0}^{n-1} v_i e_i\in Vに対して

 \displaystyle{f(v) = \sum^{n-1}_{i=0}v_i f(e_i)}=\sum^{n-1}_{i=0}(f(e_i)e^i(v))=\left(\sum^{n-1}_{i=0}f(e_i)e^i\right)(v)

したがってf e^iたちの線形結合なので,  e^i(i=0,\cdots,n-1) V^*の基底である. これを e_i(i=0,\cdots,n-1)の双対基底と呼ぶ.

2. 多重線型性
 n+1個のベクトル空間 V_i(i=0,\cdots, n-1), Wに対して, 写像

 f(v_0,\cdots,v_{n-1}) \colon V_0\times \cdots \times V_{n-1}\to W

 i番目の引数 v_i以外の引数を固定するごとに v_iに関して線形写像になっているとき fは多重線形写像であるという.

3. テンソルの定義(※弾性学の文脈で使われるテンソルを少し一般化した定義だと思う。)
ベクトル空間 Vおよび2つの非負整数 k,lに対して T^{k,l}(V)

 \overbrace{V^* \times \cdots \times V^*}^k \times  \overbrace{V\times \cdots \times V}^l

から \mathbb{R}への多重線形写像全体の集合とする.  T^{k,l}(V)の元を次数(英語ではdegreeとかorder) (k,l)テンソルと呼ぶ.

4. テンソルの例
4.1. k=l=0のとき, 次数(0,0)のテンソルスカラーという見方が一般的なようです。いい説明が思いつきません。(誰か知ってたら教えて)
4.2. k=1, l=0のとき, dualのdualは元と同じと思えるので(雑!)この意味でVの元は(1,0)次のテンソル
4.3. k=0, l=1のとき, 双対空間の定義そのものつまり(0,1)次のテンソルは双対ベクトル(空間の元), つまりVから基礎体への線形写像.
4.4. 線形写像f\colon V\to Vに対して,

 T: V^*\times V \ni (g, v) \mapsto g(f(v)) \in \mathbb{R}

は次数(1,1)のテンソル

コンパクト性定理はどのあたりがコンパクトか?

論理学(一階の述語論理)を始めた人がおそらく最初に突き当たる壁、あるいは面白くなってくるポイントはコンパクト性定理なのではないかと思う。
{\mathcal{L}}を言語とすると、定理の内容は(閉とは限らない){\mathcal{L}}論理式の集合{\Sigma}に対して、

{\Sigma}が有限充足的(任意の有限部分集合がモデルを持つ) {\Leftrightarrow} {\Sigma} がモデルを持つ

というもの。
初めて見たときはどの辺がコンパクトなのか分かりづらかったので、適当な位相空間を考えるとそのコンパクト性と上のコンパクト性定理が結びつくことを説明してみようというお話。

1. 何がコンパクトか?
これは割と重要で、これを見失うと理解が難しくなる。先に結論を言えばコンパクト性定理の主張は論理式の"集合{\Sigma}がコンパクトである"ことを言っているのではなく(標語的に言えば)一階の述語論理というシステムがコンパクトだということ。もう少しちゃんと言えば、これから説明したいのは「モデルを持つ論理式の集合」の成す集合が適当な位相によってコンパクトになるということ。このため、上で述べたコンパクト性定理を少し変形して

{\forall}モデルを持つ{\mathcal{L}}論理式の集合{\Sigma}[ {\Sigma}が有限充足的 {\Leftrightarrow} {\Sigma} がモデルを持つ ]

と書いた方がこれから説明したい内容には合うのかもしれない。(集合論の中で話がしたいので{\mathcal{L}}論理式に現れる変数記号は全てfixされた集合Xの元であることにする。以下では記号Xはこの変数記号の集合を表すためだけに使う。)

2. 冪集合の位相
上に書いたことを踏まえるとコンパクトだと思いたい集合は、

S {\overset{{\rm def}}{=}} モデルを持つ{\mathcal{L}}論理式の集合全体からなる集合

だということはわかってもらえると思う。
次にSにどう位相を入れるかだが、明らかにSは\mathcal{L}論理式全体の集合(これを\mathcal{L}(X)と書く)の冪集合2^{\mathcal{L}(X)}の部分集合なのでSをその部分"空間"と思えれば、とりあえず位相は入る。こんなことを書くくらいなので"この"相対位相によってSがコンパクトになってくれるのは想像がつくと思うが、もちろん2^{\mathcal{L}(X)}の位相がはっきりしないと”この”位相のがどの位相なのか定まらない。
そこで、冪集合の標準的な位相があるかどうかは知らないが、ここではおそらく一番素朴な方法で入る位相、つまり離散空間としての2={0,1}の直積空間としての位相を"標準的な"位相と思うことにしたい。 もう少し詳しく書くと, 集合Yの冪集合{\mathcal{P}(Y)}の元{A\subset Y}はその特性関数 $$\chi_A: Y\ni y \mapsto \begin{cases} 1 & y \in A \\ 0 & y \not\in A \end{cases} $$ に対応させることによってYから2={0,1}への写像の集合{2^Y}と同一視される(このため、以下では冪集合{\mathcal{P}(Y)}のことを{2^Y}と書くことにする)。このようにして、{2^Y}は各{y\in Y}に対して $${\rm pr}_y \colon 2^Y\ni A\mapsto \chi_A(y) \in 2$$ を"y座標"への射影とする直積空間と見なせるというわけである。 ここで考えた{2^Y}の位相は, 直積位相の定義に戻ると, 各成分への射影{{\rm pr}_y}を連続にするような最弱の位相, つまり, $$\{ {\rm pr}_{y}^{-1}(\epsilon) | y\in Y, \epsilon \in 2 \}$$ を開基とする位相である。各{y\in Y}に対して $${\rm pr}_{y}^{-1}(0)=\{A\subset Y| y\not\in A\}, {\rm pr}_{y}^{-1}(1)=\{A\subset Y| y\in A\}$$ であることに注意すると, {2^Y}の開集合全体は

{ \left\{A\subset Y \left| 
\begin{align*}
A \ni y_0, \cdots, y_{m-1} \\\
A \not\ni z_0, \cdots, z_{n-1}
\end{align*}
\right.\right\}}

の形の集合の和集合として表せる集合全体であることがわかる。この空間2^YはTychonoffの定理(コンパクト空間の直積空間はコンパクト)からコンパクトであることに注意する。

3. コンパクト性定理
(コンパクト性定理  \Rightarrow Sのコンパクト性)
コンパクト性定理の(したがって完全性定理の)主張を仮定する。このとき Sがコンパクトであることをみるには、 Sが(コンパクト空間){ 2^{\mathcal{L}(X)} }閉集合かどうかを見ればいいことになる。つまり、モデルを持たない論理式の集合の全体 {2^{\mathcal{L}(X)} \setminus S}が開集合であることを示せばいい。 ところで、論理式の集合 {\Sigma}が矛盾することは、完全性定理より、有限部分集合 {\Sigma_0}が存在して {\Sigma_0}が矛盾することと同値なので、  {2^{\mathcal{L}(X)} \setminus S}は開集合の和集合として

 {2^{\mathcal{L}(X)} \setminus S =\displaystyle{\bigcup_{ \Sigma_0 \text{矛盾する有限集合} }\{\Sigma \subset \mathcal{L}(X) | \forall \sigma \in \Sigma_0, \Sigma \ni \sigma\}}}

のように表すことができる。
(Sのコンパクト性  \Rightarrow コンパクト性定理)
Sをコンパクトであると仮定する。いま \Sigmaを有限充足的であるとすると、Sの部分集合族 \{\Delta\in S | \Delta \ni \sigma\}_{\sigma \in \Sigma}は有限交差性を持つから、Sのコンパクト性より

 \displaystyle{ 
             \bigcap_{\sigma\in \Sigma} \{\Delta \in S | \Delta \ni \sigma \} = \{\Delta \in S | \Delta \supset \Sigma \}
         }

は空でない。これは \Sigmaを含むある論理式集合が、したがって \Sigma自身がモデルを持つことを意味する。