コンパクト性定理はどのあたりがコンパクトか?
論理学(一階の述語論理)を始めた人がおそらく最初に突き当たる壁、あるいは面白くなってくるポイントはコンパクト性定理なのではないかと思う。
を言語とすると、定理の内容は(閉とは限らない)論理式の集合に対して、
が有限充足的(任意の有限部分集合がモデルを持つ) がモデルを持つ
というもの。
初めて見たときはどの辺がコンパクトなのか分かりづらかったので、適当な位相空間を考えるとそのコンパクト性と上のコンパクト性定理が結びつくことを説明してみようというお話。
1. 何がコンパクトか?
これは割と重要で、これを見失うと理解が難しくなる。先に結論を言えばコンパクト性定理の主張は論理式の"集合がコンパクトである"ことを言っているのではなく(標語的に言えば)一階の述語論理というシステムがコンパクトだということ。もう少しちゃんと言えば、これから説明したいのは「モデルを持つ論理式の集合」の成す集合が適当な位相によってコンパクトになるということ。このため、上で述べたコンパクト性定理を少し変形して
モデルを持つ論理式の集合[ が有限充足的 がモデルを持つ ]
と書いた方がこれから説明したい内容には合うのかもしれない。(集合論の中で話がしたいので論理式に現れる変数記号は全てfixされた集合Xの元であることにする。以下では記号Xはこの変数記号の集合を表すためだけに使う。)
2. 冪集合の位相
上に書いたことを踏まえるとコンパクトだと思いたい集合は、
S モデルを持つ論理式の集合全体からなる集合
だということはわかってもらえると思う。
次にSにどう位相を入れるかだが、明らかにSは論理式全体の集合(これをと書く)の冪集合の部分集合なのでSをその部分"空間"と思えれば、とりあえず位相は入る。こんなことを書くくらいなので"この"相対位相によってSがコンパクトになってくれるのは想像がつくと思うが、もちろんの位相がはっきりしないと”この”位相のがどの位相なのか定まらない。
そこで、冪集合の標準的な位相があるかどうかは知らないが、ここではおそらく一番素朴な方法で入る位相、つまり離散空間としての2={0,1}の直積空間としての位相を"標準的な"位相と思うことにしたい。
もう少し詳しく書くと, 集合Yの冪集合の元はその特性関数
$$\chi_A: Y\ni y \mapsto
\begin{cases}
1 & y \in A \\
0 & y \not\in A
\end{cases}
$$
に対応させることによってYから2={0,1}への写像の集合と同一視される(このため、以下では冪集合のことをと書くことにする)。このようにして、は各に対して
$${\rm pr}_y \colon 2^Y\ni A\mapsto \chi_A(y) \in 2$$
を"y座標"への射影とする直積空間と見なせるというわけである。 ここで考えたの位相は, 直積位相の定義に戻ると, 各成分への射影を連続にするような最弱の位相, つまり,
$$\{ {\rm pr}_{y}^{-1}(\epsilon) | y\in Y, \epsilon \in 2 \}$$
を開基とする位相である。各に対して
$${\rm pr}_{y}^{-1}(0)=\{A\subset Y| y\not\in A\}, {\rm pr}_{y}^{-1}(1)=\{A\subset Y| y\in A\}$$
であることに注意すると, の開集合全体は
の形の集合の和集合として表せる集合全体であることがわかる。この空間はTychonoffの定理(コンパクト空間の直積空間はコンパクト)からコンパクトであることに注意する。
3. コンパクト性定理
(コンパクト性定理 Sのコンパクト性)
コンパクト性定理の(したがって完全性定理の)主張を仮定する。このときがコンパクトであることをみるには、が(コンパクト空間)の閉集合かどうかを見ればいいことになる。つまり、モデルを持たない論理式の集合の全体が開集合であることを示せばいい。
ところで、論理式の集合が矛盾することは、完全性定理より、有限部分集合が存在してが矛盾することと同値なので、 は開集合の和集合として
のように表すことができる。
(Sのコンパクト性 コンパクト性定理)
Sをコンパクトであると仮定する。いまを有限充足的であるとすると、Sの部分集合族は有限交差性を持つから、Sのコンパクト性より
は空でない。これはを含むある論理式集合が、したがって自身がモデルを持つことを意味する。